こんにちは。かわぐつのケンです。
僕は動画撮影や写真撮影をするためにSonyのミラーレス一眼をメイン使っています。
突然ですが少しレンズの話をしますと、
普段、動画撮影に使っているレンズは24-70mmという標準ズームレンズに区分されるもので
動画を撮るには使いやすく良く撮れるのですが、
近寄ってディテールをしっかり撮影することには向いてないんですね。
ブログを書くにあたっては写真がメインとなる媒体ですので
しっかり細かいところまで写せるレンズが欲しいなと思っていました。
そこでマクロレンズ(接写できるレンズ)を買いました。
このレンズ、さすがマクロレンズなだけあって、
すっげえ寄れます笑
肉眼では見えないレベルまで拡大して写しだせるので
今回このマクロレンズで革靴を撮影してみることにしました。
糸や毛穴、色んなものが見えちゃいます笑
では、マクロの世界へ旅立ちましょう。
ノルベジェーゼ製法
マルモラーダのマウンテンブーツ
ノルベジェーゼのチェーンステッチを拡大!
糸が4本見えますが
上から
飾り糸
すくい糸
飾り糸
出し糸
ですね。
太めに撚った麻糸を使っているのがわかります。
すくい縫いは手縫いです。すくい縫いをする際に飾り糸を2本絡めながら縫ってます。
一番下に見える出し縫いはミシン縫いかもしれません。
ノルベジェーゼ製法だと出し縫いを2回かけることが多いですが、このマルモラーダは底周りをスマートに見せるためでしょうか。出し縫いは1回です。
ノルベジェーゼのこの見た目ははクセになりますよね。
スキンステッチと型押し
ジョンロブのエドリンというブーツです。
この靴の特徴はなんといっても
スキンステッチ!細けー
麻糸で縫ってますね。良い質感。
ぱっと見完全無双のステッチに見えたんですが、拡大するとそこそこムラはあるんですね。
(どの口がいうって感じですみません笑。僕はこんなレベルのスキンステッチはまだまだできません)
ステッチ周りに僅かに見える赤っぽい色は縫うための印かな?
トウのスキンステッチは完全です。完全にピッタリ合わさってます。
もはや型押しまであってるように見えてくる。
スコッチグレインカーフ(大麦模様の型押し)ってこうして見ると恐竜の肌みたいですね。
アッパーのミシンステッチの質感は普通です。
コードバン
リーガルトーキョー新喜皮革のコードバンです。
新喜皮革の水染めコードバンは、透明感のあるギラつかない光沢が特徴です。
履きシワのあたりを拡大してみましょう。
コードバン特有の毛羽立ちがあり革が白っぽくなってるのが見えます。
毛羽立ちのないトゥを見てみます。
表面の色は濃い色と明るい色が点描のようになってるんですねー。
ランダムな分布感がすごい!引きで見ると茶色い革靴なんですが、こんなに沢山の色の集合でできていたとは。
ボコボコな馬革
フラテッリジャコメッティのホースバット(馬のお尻)をボコボコに叩いてある靴です。
2mmくらいの厚めの馬革を叩いて凹まして表情をつけた靴で、独特な雰囲気を漂わせています。
思いっきりハンマーの痕そのまんま。このランダムかつ均整のとれた表情に仕上げるハンマー捌きはセンスの塊だと思います。
この革磨くとよく光ります。
馬の尻の革を使っているという、元々の素材的なこともありますが、叩かれて毛穴が潰れることでさらに光ってるような気がします。(すいません、写真は磨いてないのでそんなに光ってません)
4連ステッチ
カナダの1950年代にビンテージ靴、Hartt shoe
トリプルソールに4連ステッチのド迫力シューズです。
4連ステッチを拡大してみましょう。
いい質感ですね!
大きめのピンキング(革の切断面のギザギザ)も迫力があります。
これ、面白いのは4連ステッチの糸目が異なることです。
下から1本目と3本目、2本目と4本目の糸の方向が異なってるのがわかるでしょうか。
①と③は糸目が比較的真っすぐ、②と④の糸目はしっかり斜めになっています。
こうして糸の方向が異なるのはおそらく縫製時の上糸と下糸の位置関係にあると思います。
ではなぜ交互に糸目の向きが違うのでしょう。
もし普通に1本ずつ重ねるように4本とも縫ったら糸目は全て同じ方向に向くはずなので
そう縫ったことではないことは確かです。
ダブルミシンで縫ってる説が有力です。
ダブルミシンは針が2本ついていて一度に二連ステッチが縫えるミシンです。
この部分を見てもらうと、1本目と3本目のステッチの終端が飛び出てるのがわかります。
ダブルミシンで2回縫って4連にした証拠だと思います。
交互に糸目が異なる理由は、ダブルミシンの2本の針の上糸と下糸の設定がそれぞれ異なるということでしょうか。
ダブルミシンを使ったことがないので予想ですけども。
それにしても超きれいなステッチです。
変則ノルベジェーゼ製法
去年の10月頃に友人に製作したノルベジェーゼのダービーです。
先ほど登場したマルモラーダは飾り糸を絡めてチェーンステッチになっていましたが、
この靴は紐状の革を絡めています。
上から
すくい縫い(と革紐)
出し縫い1回目(アッパーとミッドソール縫い付け)
出し縫い2回目(ミッドソールとアウトソール縫い付け)
の糸が見えます。
上から糸のピッチが
8mm
5mm
2.5mm
と、順に細かくなっていきます。
全て松脂を塗り込んだ麻糸で縫っています。
一本目のすくい糸に締め付けられた革の紐のむっちり感が分かりますね笑
今見るとこのすくい縫いのステッチはもっと極太糸にしても良かったなと思います。
ちなみにアッパーの革はアノネイ社のアルカザールという型押しの革です。
表面を見るとこの辺りは(ボールジョイント周辺)は革が伸びて型押しの凹凸は薄くなり
四角めの模様の色だけが残っていますね。
竹腑のクロコダイル
去年12月くらいに製作したクロコのローファーです。
クロコダイルと一口に言っても
ポロサス(スモールクロコ)、ナイルクロコ、ラージクロコ、シャムクロコの4種類があるのですが、
こちらは比較的安価で流通量が多いシャムクロコです。
また、クロコダイルはその部位によって模様(腑といいます)が異なるのですが、この靴では腹部の中央をメインに使いました。
竹の節のように四角い模様で竹腑と呼んだりします。
腑を拡大してみます。
ワニは毛が生えてませんから毛穴はありません。それがギラギラした光沢感の要因の一つでもあります。
そのかわりというわけではないですが、穿孔という感覚器官の小さな穴が腑一つにつき1個空いています。この革では見えづらいですね。
丸腑のクロコダイル
タニノクリスチーのクロコダイルローファーです。
これも先ほどと同じくクロコですが(種類は分かりません)随分風合いが違いますよね。
これは部位による模様の違いで、この靴には脇腹を中心とした丸腑が使われています。
拡大してみると、小さな皺が縦横無尽に入り組んで丸い模様を形成しているのが分かります。
最上級の革質
これはジョンロブパリのビスポーク品です。靴好きにはまさに憧れの靴ですよね。
所有する靴の中でも最上級に革質が良く、きめ細やかです。
めちゃめちゃ均一で毛穴が細かい。
履きシワ部分の小皺を拡大!
これこそボックスカーフの理想的なシワな気がします。
均一で細かい皺がグラデーションで入ります。
アッパーのミシンステッチの質感はそこそこな気がします笑
早くリラストして履いてみたいです。(どなたかのビスポーク品を中古で購入したので自分の足にあってません)
100年前のアンティーク
1920年代製造のralston health shoesのバルモラルブーツ
前述したロブパリもすごいんですが、この革は異質です。
100年前にもかかわらず革はしなやかで光沢を保っています。
素材はカーフだと思うんですが、粘りがあるというか一般的な革とは違い、100年残るための革という感じがします。
銀面を拡大すると
古い革らしく表面のわずかな割れというかシワというかバサつきみたいなものはあるんですが、革の質感が損なわれているわけではありません。
小皺の入り方もロブのものとは違う感じがします。
そしてステッチをみると、
超絶ダブルステッチ
ステッチの質感といい細かさといい精度といい
昔の靴は良かったとはあんまり言いたくないのですが、これは間違いなく「すごく良かった」靴ですね。
褒めちぎる文章って気持ち悪いんですが、今回ばかりはすみません笑
出し縫いは少し面白いです。
機械縫いだと思いますが、ビンテージ靴に見かけるやけに平べったい縫い目。
それとウエストからフロントにかけて縫いのピッチが変わってます。
ウエスト部分は地面に触れないため耐久性が必要ないですし、奥まっていて縫いにくいので、ウエストとフロントでピッチを変えるというの手製靴ではよくやります。
これもそうした考えかもしれません。
イタリアの名品
タニノクリスチーと言うとジョッパーブーツが有名です。タニノのジョッパーはベルトの形状や木型の種類が異なるモデルがいくつかあるようですがそのうちの一足です。
タニノクリスチーは廃業しましたので、現在はこのモデルはジャコメッティが引き継いでいるようです。
タニノクリスチーのボックスカーフはどの靴もなめらかでしなやかなのですが、表面を拡大すると
なんとなくですが、ロブパリのものより柔らかさが伝わるような気がします。
この靴はマッケイ製法なのでウェルトはダミーのもの。ファッジ(ギザ)は単なる飾りで縫い目はありません。
カウンター部分のハンドステッチはナイロン糸です。麻糸と比べるとやや質感に欠けますが丈夫です。
キッシュの靴
では最後に先日完成したキッシュの革靴no.001とno.002のディテールを拡大してみます。
no.001
ミュージアムカーフの毛穴、革の断面、ミシン糸まで丸見えです。
先ほどのジョンロブのブーツ、エドリンのミシンと比べてみてください。好みの範囲かもしれませんが、こちらの方が質感は優れているように感じます。(製作者としてではなく第三者目線で見ているつもりです笑)
10spiの縫い目、糸の青さ、深く入った目付がよく見えます。青くてきれい。
正直このウィールの目付にはまだまだ課題があるなと感じているので、これから先の成長にご注目下さるとうれしいです。(細かいですが)
親穴小穴のパンチングです。
カナダビンテージのハートの4連ステッチに話が戻りますが、この靴の2連ステッチ(パンチングの下の縫い目)はシングルミシンで二回縫っているので糸目の方向は同じです。
no.002
羽根の付け根のシャコ留め、アッパーの毛穴、スエードの毛並み、一つずつ開けたパンチングが見えます。
14spi 約1.8mmの出し縫いをしたウェルトにウィールで目付けがなされ、コバのエッジが立っています。
つま先には真鍮のチップをつけているのでコバ側面から金色がのぞきます。
おわりに
ということでマクロレンズ大活躍でした!
今回の記事は自分でも多くの発見があり、コレクションの靴の新たな一面を見ることができました。今まで見えなかった部分をしっかり観察できたことによって自分の中で新たな革靴の世界が開いた気がしています。
特に自分で製作した靴を接写することにはすごく大きな意味がありました。
ぱっと見キレイに仕上がっている靴でも、拡大してみると微妙なズレや甘さがまだまだたくさんあることに気づきました。
それと同時に、細部も誤魔化さない美しいディテールを積み上げていくことによってまだまだ完成度を高められる余地があることにも気づきました。
次の靴はマクロレンズとの勝負(?)でどれだけ善戦できるのか、もう今からワクワクしてますね!笑
no.001とno.002の靴の完成記事はそれぞれ個別に改めて書く予定です。
それではまた。
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