No.023 New Antique Oxfordの完成レビュー

こんにちは。かわぐつのケンです。

この記事では今回製作したNo.023 New Antique Oxfordの完成レビューをお届けします。

今年のナンバーズコレクションは、展示会において展示し気に入った方がいらっしゃれば先着順でその場でご購入いただけます。(会期中は展示し、終了後ご郵送します)

(現地に来られた方優先ですが、遠方の方でご購入希望の方は事前にご連絡いただいた上で(こちらも先着順) 展示会初日の13時までに現地で購入がなければ購入成立とさせていただきます。)

目次

Numbers Collection 2025について

今年の展示会にむけて製作するNumbers Collection は3足

共通するテーマとして「時間とエイジング」を掲げ、それぞれ別なアプローチでそれを表現しています。

革は耐久性が高く、長く使うことができる。そして使い続けるほどに美しく育つ素材です。

革の魅力としてよく語られる「経年変化」という言葉は、ともすると売り手・買い手の双方が、革を説明するための便利なラベルのように扱ってしまいがちな面があるのではないかと、以前から感じていました。

「この革は経年変化して美しくなりますよ」
「経年変化が楽しみです」
「経年変化していい雰囲気ですね」

しかし実際のところ、経年変化という現象には、この四文字だけでは到底言い表せない深さと奥行きが宿っています。

今回の作品群は、革や革靴、そしてビンテージシューズが持つ“経年変化”と“時間”について、改めて考えるきっかけになることを目指しています。

僕自身も、そして皆さんも、その魅力をもう一度見つめ直し、目には見えない「時間」という存在に思いを馳せる機会となれば幸いです。

No.023 New Antique Oxford

No.023 New Antique Oxford

¥440,000 (税込)

サイズ : UK7 25.5cm スタンダードラスト(MTOラストとトゥシェイプは異なります)
アッパーマテリアル : Italian calf Aging processing
ソール仕様 :
 ハンドソーン製法 インサイドベヴェルドウエスト
シューツリー : 2ピース

製作の経緯

アルチザン系ブランドや、ストリートファッションには新品状態から古く見える加工が施されているものが存在していることは詳しくない方でも想像に難くないと思います。

実はドレスシューズの世界にもそういったものがあります。

それはモードブランドの革靴などではなく、老舗の伝統的に作られた革靴にも染めによるグラデーションによって古い雰囲気に見えるようなものや、靴にしてから革の色を抜いて風合いを出した物があります。

昔からその雰囲気に憧れがあり、いつか作ってみたいという思いがありました。

また、それとは別軸で、お客さんの靴を見たり、様々な靴の写真を見ていく中で単純に履き込まれた靴ってかっこいいな、自分もあんな靴になるまで履き倒してみたいな、という思いもありました。

また、靴とは少しズレますが僕はアンティーク家具が結構好きで、(靴のように詳しくないですが)工房にはこれ必要ないよね?みたいなアンティークもあります。つい物を見ると欲しくなってしまい何かと理由をつけて買ってしまった結果です。アンティーク家具独特の傷や色の風合い、木目の美しさ、造形美など心に刺さります。

今回の時間とエイジングというテーマは最初の思いつきの直接的なきっかけは覚えていませんが、これまで色々な欲求や発想を蓄えてきた結果、今回No.022,024も含めて現実のものとなったということです。

ただ、エイジングと謳うからにはただの染色では終わらない本気のエイジング加工をしてみようと企んでいました。

エイジング加工

この靴の第一の完成はこの状態です。無染色、表面仕上げなしのクロムなめしの革を使ってクラシックな靴作りを行いました。

ちなみにクロムなめしの革を使うことが重要で、理由は主に二つありました。

一つ目は、一般的にドレスシューズらしい雰囲気を出すのはタンニンなめしに比べてクロムなめしの方が適しているということ。

二つ目はタンニンなめしの革では ”エイジングしすぎる” ことが理由です。
これはタンニンなめしの革で作った靴にがっつりエイジング加工を施したことはないので予想ですが、クロムなめし革が比較的色々な意味で状態が変わりづらいのに対し、タンニンなめしは非常に素直でエイジング加工の影響を強く受けすぎ、コントロールできないと感じていたからです。

今回思い描くエイジング加工の完成図を想像した時にクロムなめしの革ベースで行う必要がありました。

No.023に施したエイジング加工の方法は以下の通りです。

染色

ライトブラウンの靴が長年履くことによって、色抜けしたり濃くなったりした状態を想像しながら黄色ベースの茶色で染めていきます。赤い色素は比較的壊れやすいので時間の経過を表現するために赤味は入れないように気をつけます。

染色は初期段階である程度整え、エイジング期間中にも追加で何度も染色を繰り返しました。

クリーム

靴クリームを、穴飾りや革の断面を中心に塗り込みます。また革の表面にも微細な毛穴に入り込むように塗り込みます。染料が全体をさっと色付けするのに対し靴クリームは定着しやすいところ(断面で繊維が出ているところや、毛穴も含む奥まった部分)のみに色付けできます。

アッパーのダメージ

履いて歩くことを考えた時のダメージを与えます。これは靴の部位によってかなり差がありますが、多くの傷がつくのはやはりつま先、次に踵やボールジョイントのサイドです。こういったところにスレや傷をあえてつけます。重要なのはこの靴を傷つけてボロボロにしたいわけではなく、様々な傷やスレがあることで、染料やクリームの入り方が変化し表情に奥行きが出るということです。

せっかくなのでダメージを与える道具も靴作りの道具です。

  • ハンマー(打痕)
  • 打ち錐(切り傷)
  • こくり棒(摩擦)
  • やすり、ガラス、定規(スレ)

日光浴

短い間(2~3週間ほど)ではありますが、紫外線による経年変化も期待し、八ヶ岳の森の中日光浴をします。

靴磨き

幾度となくクリームやワックス(時にはニュートラル、時には茶色や黒)を塗り込みブラッシングや乾拭きを行います。塗り込むだけでなく一旦落として放置、しばらくしてからまた塗り込むなど、実際にこの靴が日々ケアされたと仮定して反復を行いました。

ソールのダメージや染色

最も地面に近いところにいるため、アッパー以上にソールはエイジングします。

最初はメリハリのついたコバも徐々に角が取れ、傷がつき、色褪せます。そして補色する。

それらの流れに沿うようにダメージを与えて、色を落として染色し直しました。

しかしハンドソーン製法で作られた靴の特徴である「ソールを交換できる」ということを考えると、アッパーは最初からエイジングを重ね続けるのに対してソールは何度か新品に交換されているはずです。

それも考えた上で、ソールのエイジング具合はアッパーに比べると比較的軽微にとどめましたが、それでもやはり新品とは違う雰囲気を纏っています。

靴紐

靴紐もソールと同様一定の期間で消耗するためある程度のエイジングにとどめていますが、(紐のエイジングの行き着く先は切れることなので)全体の雰囲気に合うような風合いに加工しています。

ロー引きの平紐をまず軽くやすって毛羽立たせ、水で洗って繊維をほぐしてよく乾燥させます。(料理レシピみたいですね)

その後再びロー引きを行いました。蜜蝋を塗りこんで溶かして染み込ませます。

それによって新品のパリッと感はなくなりつつもしっかり靴紐としての役目をまっとうできるエイジング靴紐が完成しました。

アッパーのディテール

デザインは非常にクラシックなセミブローグ。イメージとしてはイタリアの老舗、Gatto, Mercurio, Ballini, Messinaなど。

少しボリューム感のあるスクエアトウはダブルキャップ(革が二重になっている)で製作しています。

ちなみにこのダブルキャップ、バンプの革の上にキャップの革がのっている構造です。(現代の靴作りの基本は二重ではなくキャップ部分で革をついでいる)
つま先は傷がつきやすいので、キャップ革のみオールソールのタイミングで交換できるようになっているという話がありますが、黒い靴の場合は別としてこういった色のある革の場合、もしこうして傷がついたからといってキャップ革を交換したらどうでしょう。すごくアンバランスになりそうな気がします。

実際、交換するのはかなりの手間ですし、他のパーツとの違いも出てしまうため、かなりの重傷を負わない限り交換することはないのでしょう。傷も(限度はあれど)こうしてエイジングの一部として美しいのだからぜひ気にせず愛して欲しいです。

またメダリオンの穴も少し大きめです。

そしてそこに入るいくつもの傷の痕跡。切り傷のように深くはないけれど、確実についたスレ傷によってその後の染料やクリームの吸収具合の違いからこのような絶妙な存在感の痕跡になっています。

本来、履きシワが付いているだろうバンプ部分はツルッとしています。ここが最も難しく、かつてこれほど履きシワの存在を欲したことはなかったと思います。エイジングにおいて履きシワ部分は色を入れないケアだと、色褪せる傾向にあるので色を薄めに染めています。

その余白に僅かな傷やシミが存在感を示します。

また、この靴の仕上げではワックスをつま先と踵以外にも塗り込み膜を作ったのち、つま先と踵以外の芯が入っていない部分は揉み込んでワックスの膜をあえて割っています。

通常の靴磨きのセオリーではこのワックスが割れてしまう部分には膜を作らず、つま先と踵にかけての自然なグラデーションを作りつつ、全体を輝かせることが腕の見せ所かと思いますが、この靴の場合はあえて全体にワックスをかけてひび割れさせました。

どうしても革は経年変化(劣化とも言える)によってどれだけ丁寧にケアしても表面が乾燥して小さなひび割れを起こすことはあると思います。

今回の仕上げのワックスではあえてひび割れさせることによって、擬似的に乾燥した革の風合いというのを表現したかったのです。実際革は新しく健全な状態なのでスレや傷はあれどひび割れはありません。その中でエイジング加工の見せ方としてワックスを割るという逆転の方法を行いました。

染料や革を何度も塗って落としてを繰り返した結果、不均一でまだらに色が付いていきました。元々の革質や微妙な塗り方の違いなど様々なものが積み重なった結果だと思いますが、それが長年のケアをギュッと凝縮しているようでまさに古びた風合いを生み出しています。

またクリームがミシン糸に染み込み、元々ベージュ色だった糸は茶色く汚れ、鈍く輝きます。

また、場所によってはミシンの糸の間を蝋が埋めているところもあります。

ギンピング(ギザギザにカット)された革の断面と、穴飾りの断面も茶色く染まり、汚れて見えます。

ライニングにもエイジング加工を施しているため、すでに履き古したような色合いになっています。

ソールのディテール

ソールはシングルレザーソールで、内側のみベヴェルドウエストでぐっと絞り込まれています。

ソール面のエイジングに関しては様々考えましたが、レザーソールのエイジングの見た目は美しさというよりは消耗に近いので、この靴ではダメージ加工などは行わず、風合いを少しエイジングするにとどめました。

もしエイジング加工と称して接地面を削り始めたとしたら、それはもはやエイジング加工というよりは消耗といったほうが近いでしょう。

シューツリー

当然シューツリーもこの靴と同じ時を歩みエイジングしているべきです。

脱着時の摩擦や、使用時の傷なども考えて靴と同じく一度綺麗に作った後にエイジング加工を行なっています。

真鍮金具類もそれに合わせてエイジング、または製作を行なっています。

最後に

今回のNo.023 New Anitque Oxfordの製作を通して改めて感じたのは、「靴は履くことで生まれる美しさがある」ということでした。

もちろん、そんなことは靴好きであれば共通認識ですし、僕自身もわかっていたことです。だからこそ今回、エイジングへの憧れからこの製作を始めたわけです。

ただ、エイジングをなんとなくの現象ではなく、様々な要素に分解して、これがこうなる、だからこうやって表現する、と自分自身に説明するかの如く製作過程を踏んでいくことによって、よりエイジングへの解像度が高まった気がするのです。

履くことの美しさ

もちろん、飾って楽しむ靴も素晴らしい存在ですし、僕自身そのような作品を目指して制作しています。No.018 HorusやChampionships出品作品などは、履かないからこそ生み出すことのできる究極的な造形美です。

また、履ける靴として製作したものでも、実際に「これは飾ります」と言われることもあり、それは作者としてとても嬉しいことです。履かずともそこに存在できるような芸術性を靴は持っているし、それを目指しています。

ただ同時に、履くことでしか得られない美しさがある。
特に履きジワは、革に立体感と奥行きを生み、クリームの入り方や革の凹凸がその靴固有の表情をつくり出します。今回の作品は意図的に“履きジワ無し”でどこまで深いエイジング表現ができるかを追求しましたが、それでも「履きジワが入った姿を見たい」と思うほど、その重要性に気づかされました。

また、履き込む中で生まれるクラック(ひび割れ)も、決して単なる劣化ではありません。
アッパーはソールと違い交換ができないので、クラックは寿命の目安とも言えますが、それすらも“履いてきた証”であり、エイジングの痕跡であり、その靴を愛した時間そのものです。

クラックにより靴そのものが纏うオーラも、そこまで長く大事に使い続けた使い手の精神性も含めて、唯一無二の魅力となっていくと感じました。

エイジングはデータ

僕が革靴を好きな理由の一つに、「記憶装置」としての役割があります。
これまで多くの靴を履き、さまざまな場所へ出かけてきました。その靴をふと眺めるだけで、その時の情景や気持ちがよみがえります。小さな傷ひとつにも、確かに自分が歩いてきた時間が宿っている。

エイジングとは、革靴が「記憶装置」として機能するためのデータのようなものです。
履きジワも色の変化も、乾燥や摩耗も、すべてが自分の人生の軌跡として積み重なっていく。

それを愛して共に歩んでいくということは自分の人生を記録していく行為と同義なのではないかと思うのです。

今回のNo.23 New Antique Oxford は、履かずにどこまで奥行きをつくれるかに挑んだ作品です。
1㎜以下の世界で積み上げた色の深みや、革の毛穴一つひとつに宿る表情は写真や映像では伝えきれません。

是非展示会で実物をご覧ください。

Khish the Work 展示会
 日程:12月5日(金)〜7日(日)の3日間
 時間:11:00-19:00
 場所:東京都渋谷区渋谷1丁目22−5 1F
  渋谷駅から徒歩4分の会場です。

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