出し縫いのこだわり

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出し縫いのこだわり

こんにちは、かわぐつのケンです。

本日は出し縫いについてのお話。

出し縫いというのは底縫い、アウトソールステッチなどとも言いまして

靴底が剥がれないように留めつけておく縫いのことです。(主にウェルト製法において)

革靴において非常に重要な出し縫いなんですが、機械で縫う方法と手で縫う方法があり、それぞれ特長があります。

なんですが、今回はその話は置いておいて、

「出し縫い」というものが靴にどんな影響を与えているのか、どんな違いがあるのか

ということを書いてみようと思います。

(今回はハンドソーンウェルト製法の革靴について主に話します。)

目次

出し縫いは靴の額

出し縫いは、くる日もくる日もソールの曲がりや雨風に耐えながら

靴底を剥がさないという

縫い糸としての役割がありますよね。

そう考えて出し縫い糸を見てみてください。健気で愛おしく感じられます。笑

 

ただ、それだけではありません。

出し縫いはそんな物理的な機能だけではないのが靴の面白さなんです。

それが

デザインです。

 

出し縫い(含むウェルト)は靴のアッパーを囲むようにぐるっと回ります。靴の縁取り(額縁)のようになってるわけです。

 

突然ですが、絵画を想像してください。

大きな美術館所蔵の名画は額縁も物凄い造形ですよね。額が絵画の魅力をさらに引き立てるとか。

(余談ですが、額縁の世界は深いらしく、イタリア額、オランダ額、、など国や職人によって様々な造形の特徴があるようです。)

 

出し縫いもおなじように靴を引き立てる役割があるのだと僕は考えています。


ちなみにラズロ・ヴァーシュ氏の名著『Handmade shoes for men』では

so that they now sit on top of the welt like little beads.

「出し縫い糸がウェルトの上に小さなビーズのように並ぶ」

という表現がされていました。

Handmade shoes for men 出し縫いについて

縫い目が靴を変える

この靴の額縁とも言える出し縫いですが、大きくわけて縫い目の細かさ、糸、色によって印象が大きく変化します。

出し縫いの細かさ

出し縫いはspiといってStitch per INCH、1インチのなかに何針縫ってあるかで表します。
1インチ(25.4mm)のあいだに10針縫っていたら10spiと呼びます。

25.4mm / 10 = 2.54mm(10spiの出し縫いの一針の間隔となります)

つまりspiの表す数字が大きいほど1インチあたりの縫い目の数が多くなるので、より細かく縫っているということになります。


こちらが10spi(1針2.54mm)

10spiの出し縫い

ハンドメイドのドレスシューズの中では標準もしくは少し粗めくらいです。実用的にも見た目的にも適度な細かさです。

ドレスシューズの機械縫いの場合もこのくらいになることが多いと思います。(機械縫いは厳密には縫い目のピッチは一定ではありません)

こちらは14spi(1針1.81mm)

14spiの出し縫い

かなり細かくなってくるので華奢でエレガントな印象が漂います。

ドレッシーな表情の靴によく合います。

こちらは7spi

7spiの出し縫い
7spiの出し縫いギザなし

打って変わって粗めの出し縫いです。縫い目が粗い方が無骨でカジュアルな印象があるのがわかります。

ブーツやコバの張り出した靴に使います。


機能とデザインは相反することがある。

出し縫いのピッチの意匠的な面について書いてきましたが、出し縫い糸は物理的な機能を持っていることを忘れてはいけません。

ピッチが細かくなるということは、縫い穴同士の距離が近づいていくということです。

縫い目が細かくなっていくにつれて、革がキリトリ線のようになり、強度が弱まって千切れる可能性も高まります。

逆に縫い目が粗すぎると屈曲に耐えられずにソールの口が開いたり水の侵入を許したりします。

個人的な感覚としては機能的に適正(ソールが剥がれず耐久性に優れる)なのは、一針の間隔は6mmくらいから3mmくらいなのではないかなと思っています。(主観的、感覚的な見解です)

また、修理のことも考えると、あまり細かい縫いはウェルトへのダメージが大きくよろしくないという側面もあると思います。

実際に実用靴で採用するかどうかは別にして、極限まで細かい縫いに挑戦してみたいですけどね笑

糸の色

ドレスシューズを製作する場合、出し縫い糸はウェルトと同色に染めてウェルトに同化させる仕上げにすることが多いです。

こんな感じで、縫い糸そのものは目立たずにウェルトの目付けと同化してギザギザだけが見えます。

ウェルトに同化した出し縫い

ですがウェルトと異なる色にして縫い目をあえて目立たせることもあります。

カジュアル目な靴には白ステッチを採用することがあります。軽快で可愛らしい印象が出てきますよね。

白いステッチ
カジュアルな雰囲気

 

こんな風にウェルトと同系色だけど若干色が違うということもできます。

ネイビーに青いステッチ

この靴はネイビーなので、光の加減によっては黒い靴見えるんですよね。

Khishのno.001

なので出し縫いを少し明るめのネイビーにすることで靴のネイビー感を少し強調しました。

このように出し縫いやコバ、アッパーのミシン糸など、アッパーに比べて少し明るめの色使うことで、目の錯覚で靴全体の色彩が際立つ場合があります。

出し糸の種類

出し縫いには麻の糸を使います。

どの糸が自分に合っているのかは、まだまだ色々試しているところなんですが、これまで使ってきた(使っていく)糸たちです。

この糸にチャン(松脂とロウと油の混合物)を塗り込んで使います。

出し縫い糸

Tosco Superior Ramie Thread 橋印 6本撚り

こちらは国産の糸です。橋印

Ramie Thread 橋印6本撚り

麻といってもramie threadなので苧麻(ちょま)の糸です。

ちょま。かわいい。

 

6本撚りです。最近使ってません。

そのままだと撚りが強いので少し弱めて使いますが、それでも撚りが強いなと言う感じ。

ちなみにすくい縫いではさらに太い9本撚りを使います。

(麻と言うとリネン-亜麻、ラミー-苧麻、ヘンプ-大麻などがあります)

Tosco Superior Ramie Thread 橋印単糸

国産橋印ラミーの単糸で、前述のものと違い、撚りがかかっていません。

麻の細い繊維がまとまった単糸で、これに自分で撚りをかけて使います。

出し縫いの場合は3本程度撚ります。

単糸のほうが元々の撚りがかかってない分、糸が潰れやすくウェルトに馴染みやすいです。

撚る本数次第で太めにすることも可能。

Ramie Thread 橋印単糸

Coats Barbour Linen Single Shoe

アイルランド製のリネン単糸です。

Coats Barbour Linen Single Shoe

リネンということは亜麻ですね。

ラミー(苧麻)とリネン(亜麻)の繊維質の違いとして、

ラミーが天然繊維のなかで最も強く、繊維が太くハリと光沢感があり、白味が強い。

リネンが、強さ光沢はラミーに次ぎ、繊維が細くしなやかで、少し黄味がかる。

らしいです。

この糸はまだ最近使い始めたばかりなのですが、縫いやすく糸なじみもいい感じです。

色も何種類かあります。

出し縫いに関わる選択肢

以上出し縫いに関してお話ししてきました。

実は出し縫いはウェルトや製法にも大いに関わってくるところなので、縫い目と糸についてだけ話していてもダメなんですが、

長くなりすぎるのでその辺の話はまた今度。

以下に出し縫いをする際の選択肢を並べておきます。

  • spi
  • 糸の色
  • 糸の太さ
  • 糸の撚り
  • 糸の種類

関連してくる選択肢

  • ウェルトの素材
  • ウェルトの仕上げ
  • 目付けのやり方
  • 出し針の形状
  • 靴の製法

などなどたくさん。

ある程度定石となる組み合わせはありますが、上記の選択肢の組み合わせ次第ではバリエーションがめちゃくちゃあります。(出し縫いだけで!)

とはいっても超細かいところなので、作ってる自分にしかわからない違いもたくさんあると思います笑

でもそれでいいんです。そこが楽しいですから。

 

この記事を読んでくれた方は出し縫いを見る目が少し変わったことでしょう。

今後はさらにマニアックな視点から革靴をお楽しみください笑

 

ウェルトや製法の話はまた今度しようと思います。

それではまた。

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