革を立体化するパターン解説

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革靴のデザインは必然である - ケン・ヒシヌマ

という名言があります。無いです。

あ、私のことです。


はい。

今回は革靴のデザインはなぜこの形なのかということについて書こうと思います。

といってもスタイルの歴史的由来や成り立ちのストーリーではなくもっと根本的な部分、

革靴の、ひいては靴の、基本的パターン(型紙)は物理的になぜこの形なのか、ということについて僕の考えているところをお話しします。

後日動画で補足しました!合わせてご覧ください。

動画での補足
目次

革は平面、靴は立体

革というのは動物の皮膚を平らに伸ばして作ってあります。

基本的には胴体部分のみ(首から腰に掛けて)、単純化すると円柱のような形状をした部分の「皮」を展開して伸ばして「革」にしています。

牛です

物理的に無理のない、自然なやり方ですよね。

もし、足や頭などの皮もくっついたまま平面の革にするとしたら。
(すべてを展開してべたっと平面にする)

それは物理的に考えて無理そうです。

なぜなら足や頭は立体的すぎるからです。

 

でも靴は、人間の足なのです。

せっかく無理のない自然な平面になっている革を、今度は無理のある立体物にしなくてはならないのです。

そこで意味を持つのがパターンの役割です。

このパターンワークはシャツやパンツにも共通することです。服も平面の生地を体に合わせた立体にする必要があるので靴よりある意味パターンの重要性が高いと思います。
体のボディ部分は腕や足、首、背中など容易に立体形状を想像できるので、それに合わせたパターンワーク(襟、前身頃、袖等)が当たり前すぎて何も思わないレベルである一方、逆に足の立体形状はあまり意識することがないために、何も思わないレベルになっているという、対比が面白いなと思います。
(パターンについてどちらも考えを巡らせたことのある方ももちろん多くいると思いますが。)

木型の形状

体の形状はどこも複雑ですが、服はぴちぴちにフィットさせるわけではないため、ある程度遊びがあるのが当然です。むしろ遊びは機能的に必要ですし、遊びはデザインにすらなります。

足はなかなかそうはいかない。遊びは基本的には無しです。(部位によってあえて遊びは作りますが)

ゆるすぎきつすぎは、脱げたり歩けなくなったりしますから。

足は非常に複雑な形状をしています。木型も足と同じ形はしていませんが同様に非常に複雑な立体形状をしています。

パターンを考える際には実際にはそこまで複雑な木型形状について考える必要はないので

一旦極限まで足を簡素化してみました。

足の簡素化モデル

台形の直方体に三角錐が乗っています。足の平をベースに甲の立ち上がり部分が乗っているようなイメージです。

もう少し足の形状に近づけます。

足の簡素化モデルver.2

直方体に三角錐が乗っていることは変わりませんが、三角錐の前方頂点は実際は足の内側にずれ、ヒールはボール状に丸みを帯びます。

伝統的でスタンダードな靴のパターンはこのくらいまでの革の立体化を再現していると思います。

スタンダードなパターンの場合、革の立体化に関わるパターンラインは2,3本程度です。

もちろんこれだけで木型の立体性は再現できないので後は吊り込み作業で革を引っ張り、革の伸びによって立体化することを期待します。

伝統的な立体化の見られるパターン

パターンにおける立体化とは、縫製を行う際に平面の革同士を歪ませて接合することで立体的に作ることです。

シャツの肩と袖のつなぎ目と同じようなイメージです。

以下に挙げる立体化ラインとは、接合によりアッパーが立体的に作られるポイントとなるラインを指します。

内羽根のヴァンプライン

多くのデザインで見られるのがヴァンプラインでの立体化です。

直方体と三角錐の境目あたりに来ます。

指の付け根あたりを覆うヴァンプパーツと、踵から甲にかけてを覆うカウンターパーツの接合部分です。

内羽根ヴァンプラインモデル
内羽根ヴァンプライン

外羽根のヴァンプライン

こちらも同じくヴァンプラインでの立体化ですが外羽根の場合こうなります。

外羽根ヴァンプラインモデル
外羽根ヴァンプライン

ロングヴァンプライン

前述のヴァンプラインが踏まず部分に落ちずにヒールまで平行に伸び、甲の立ち上がり部分を立体化します。

三角錐をロングヴァンプラインが囲みます。

ロングヴァンプラインモデル
ロングヴァンプライン

アデレードライン

甲の立ち上がり部分のみを切り抜いてクォーターパーツを接合して立体化。

三角錐の前面を通ります。

アデレードラインモデル
アデレードライン

外羽根だけ別、ライン

名前が分かりませんが羽根の先っぽ、鳩目周りだけを別パーツにすることで甲の立ち上がり部分を立体化。前述したアデレードが内羽根の甲部分のみ立体化なら、こちらはそれの外羽根バージョンといえるでしょう。

(外羽根ホールカットともいえる)

外羽根だけ別、ラインモデル
外羽根だけ別、ライン

エプロン

指の付け根のあたりを覆う革を別パーツにすることで羽根を立ち上げ甲を立体化します。

同時に前足部(指周り)も若干ですが、直方体部分を覆うようにドーム状に立体化されます

エプロンモデル
エプロン

ヒールシーム

多くのデザインで見られるヒールカップの立体化です。

丸みを帯びた踵を包むようにヒールのセンターで分割し立体化します。

ヒールシームモデル
ヒールシーム

トウスプリット

分割されたつま先。上記のエプロンに付随することが多いです。

わずかにトゥ形状に沿って丸みをつけて立体化することがあります。

トウスプリットモデル
トウスプリット

以上が伝統的なスタンダードなパターンにおける主な立体化のラインです。

甲の立ち上がりとヒールカーブを立体化させることが主な目的になっていることが分かります。

他のパターン

パターンはちゃんと靴になるのであればいくらでもアレンジし放題なのですが(むしろそこが個性であり腕の見せ所かもしれない)その中には上記の先人たちの考えた「立体化のルール」をガン無視したものもたくさんありますのでご紹介します。

(文章が少々乱れることご容赦ください)

ホールカット

これはもうアレです。反則です。

無法地帯。

節操がない。

(ホールカットは王道ですし僕も好きです)

なんで革の伸びだけでいけるっしょと思っちゃったのか。まあいけるんですけど。

革すげえ。

立体化ライン、ガン無視です。ただ多くの靴ははヒールセンターシームは“ちゃんと”ありますね。

シームレスヒール

これもホールカットほどじゃないけどイエローカードです。

踵がつるっときれいになるからって、なんでせっかくの踵の丸みの立体化台無しにしちゃうん?

だってシームレスヒールきれいじゃんかわいいじゃん。大好き。

ホールカット★ヒールシームずらし

上記二種の合わせ技。つまりアウトロー。

“ちゃんと”あったヒールセンターシームをインサイドにずらしてしまうという暴挙。

ホールカットandシームレスヒール、継ぎ目なしでルール無視でマジで悪友

だめだって言ってるのになんでそんなことするのよ。目には目を、じゃないんだから。

子どもの教育に悪いからダメです。

革と技術がすげえ。

しーむれすほーるかっと☆彡

その時私、言葉を失ったんです。

まさかこんなことになってしまうなんて、、。

いいからいいから、やっちゃいなって。

甘い言葉にのせられるがままに、、

気づいたらこんなことになってました。

 

じゃないのよ。(何の話

 

一枚の革、パターンはさ、一旦置いといて、ね。

とりあえずその革そのまま木型に吊りこんじゃお?

 

じゃないのよ。いやすごいけども。

全く継ぎ目のない完全一枚革ホールカットです。

 

いや結局これができるなら、今まで頑張って書いた記事は何だったんだあ!!笑

以上

(ちなみにシームレスホールカットは僕はまだできません。ディス風でしたが本当はめっちゃやりたいです。まだ技術が追い付いていません。頑張ります。)

(最も無理なく平面を立体的にする方法は木型をポリゴン状に平面を組み合わせて近似することじゃない?と考えたら、思い当たる節が…スコッチグレインスパイダー…。あの靴ってそういうことなの!?)

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • パターンのマニアックな解説ありがとうございます✨
    僕も最近いかに釣り込みやすく立体化できるかを考えたときに、筒状理論に気づいたのでタイムリーでした笑

    今の課題は甲外側の木型の立体部がどうしても浮いてしまうので、そこを解決することです(-_-;)

    型紙って奥が深すぎますよね~(^^;

    • ヨシケンさん
      お読み頂きありがとうございます!
      つり込みで意外となんとかなってしまうのも悪いですよね笑(悪くないです、革すごい)

      木型外側の反りは難しいですよね、でもフィッティングとかっこよさには大事な部分なのでがんばってください!僕も悩みどころです

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